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東京高等裁判所 平成4年(行コ)35号 判決

東京都世田谷区成城四丁目三一番二六号

控訴人

村上靜雄

右訴訟代理人弁護士

佐藤義行

右同

後藤正幸

右同

中川明

右同

丹羽一彦

右同

小林雅人

右丹羽一彦控訴復代理人

丸橋亜紀

東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号

被控訴人

世田谷税務所長 一杉直

右指定代理人

開山憲一

右同

石井一成

右同

中村宏一

右同

蜂谷光男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決中、控訴人の左記(二)の請求を棄却した部分を取り消す。

(二)  控訴人の昭和五四年から昭和五六年までの各年分の所得税について、被控訴人世田谷税務署長(以下「被控訴人署長」という。)がいずれも昭和五八年三月一四日付けでした各更正(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消された後のもの)のうち、昭和五四年分については、総所得金額で二四六九万円、所得税額で八一万二九〇〇円を、昭和五五年分については、総所得金額で、三〇七九万七五〇〇円、所得税額で一七九万四七〇〇円を、同五六年分については、総所得金額で三三五〇万五〇〇〇円、所得税額で六四万六〇〇〇円をそれぞれ越える部分及び過少申告加算税賦課決定(昭和五六年分については異議決定によって一部を取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

二  当事者の主張

当事者の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示中の被控訴人に関する部分のとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。

1  原判決一三枚目裏六行目の「本件」を「原審、当審の」に改める。

理由

一  当裁判所は、原判決の判断を正当とするものであり、その理由は、原判決の理由説示一、第二の一ないし三(但し、被控訴人に関する部分のみ。)のとおりであるからこれを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。

1  原判決一四枚目裏一一行目の「乙一号証」の前に「甲一二四号証、」を同行目の「まで」の次に「、同一二号証の一ないし三、」を同行目の「三二号」の次に「証」をそれぞれ加える。

2  同一五枚目表一行目の「聴取書)」の次に「、同三四号証の一ないし三、同四三号証の一ないし五、同四四、四五号証の各一ないし六」を加える。

3  同一五枚目裏五行目の「昭和四九年六月ころ、」を「昭和四八年七月ころに」に改め、同七行目の「ことがあり、」の次に「また、控訴人らが右問題につき支店長の対策会議を開いたところ、控訴人から本部長の首などすぐ飛ばせるなどと言われるなどしたことから、」を、同一一行目の「考え、」の次に「昭和四九年六月ころから」をそれぞれ加える。

4  同一六枚目表四行目の「その後、」の次に「昭和五〇年一月に」を、同行目の「及び」の次に「そのころ」を、同行目の「ため、」の次に「田口及び山下(以下、合わせていうときは「田口ら」という。)はその手数料等の報酬の一部を個別に控訴人に支払うようにより、」を、同七行目の「対応して、」の次に「昭和五二年ころから」を、同一〇行目の「支払われている」の次に「ほか、昭和五七年一月ころには、控訴人のティビーエス・ブリタニカの退職金から田口らに八一〇万円ずつが支払われた。」をそれぞれ加える。

5  同一七枚目裏末行の「そもそも」から同一八枚目表一行目の「して、」までを削る。

6  同一八枚目表三行目の「(これを」から同五行目の「しまう。)」までを削る

7  同一八枚目裏四行目の「開発等」の次に「(同社のほか、控訴人が兼務する株式会社ティビーエス・ブリタニカ、ティビーエス・ブリタニカ年鑑株式会社)」を、同8行目の「供述」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

8  同二〇枚目表四行目の「なお」から同九行目の末尾までを削る。

9  同二一枚目表八行目の「なお」から同二一枚目裏一行目の末尾までを削る。

10  同二一枚目裏六行目の「抽象的に」から同九行目の「であり」までを次のとおり改める。

「抽象的であって、その支払額の算出の変遷の基準についても、分からないと述べたり、おおざっぱな話は出ていたと述べたりするなど、あいまいなものであるし、右支払額と控訴人の支払額との比較についても、大体同じ位じゃないかと思う、逆に余計に渡していたんじゃないかと思うなどと不明確な供述にとどまるものであり」

11  同二一枚目裏一〇目の「前記のような書証等の裏付けのある」を「本判決二1に判示するような」に改める。

二  当審における控訴人の主張に対する判断

1  控訴人は、証人田口、同山下の各証言は信用し難いと主張する。しかし、田口らの証言は、前後齟齬する部分もあるけれども、控訴人に対する金員を交付するに至った経緯、金員供与の趣旨、金員の計算方法などについて、その内容は具体的詳細であるうえほぼ一貫しており、乙一、三二号証ともその内容はほぼ符合しており、金員の支出についても乙四、五、八、一三号証、同七号証の一ないし二四などこれを裏付ける書証の提出もあり、全体として見ると、大筋において信用することができると考える。

2  控訴人が田口及び山下から本件各年度において交付を受けた金員については、前記認定事実によれば、東日本事業本部長及び新居日本事業本部長の地位にそれぞれあった田口及び山下が、国際教育開発の代表取締役専務の地位にあり、右田口らの職務に関して指示管理し得る立場にあった控訴人に対し、それぞれの書籍販売の営業活動が円滑にゆくように社内で便宜を図って欲しい趣旨で、一定の計算方法により金額を算出し、定期的に継続的に供与した金員ということができる。

控訴人は、田口らによる右金員の交付は、贈与として贈与税の課税対象に該当すると主張する。しかし、田口らが、控訴人に対し、金員を供与するようになった経緯、動機、両者の国際教育開発内における関係、金員交付の趣旨、金員の計算方法、金額は前示のとおりであり、これらの事実を考慮すると、右金員の交付と田口らが控訴人に期待した書籍販売における社内における便宜な取扱いを図ることとは対価的な関係にあると見ることができるから、控訴人による右金員の取得を無償ということはできない(もとより、負担付贈与とは、その性質を異にする。)。右金員の取得は、贈与税の課税対象たる贈与に当たらないと解される。

そして、右金員の受領により控訴人に発生した所得は、所得税法上、継続的に生じるもので一時的偶発的なものではなく、控訴人の職務の性質に基本的に変更のない限り、その職務上の行為と性質上対価的関連を有するものであるから一時所得に当たるとはいえず、その他の各種所得にも当たらないから、雑所得に該当すると解するのが相当である。

3  控訴人は、控訴人が田口らから受領した金員は控訴人が田口らに交付した金員と表裏一体の関係にあるから、所得の算定に当たっては、控訴人の受領金員から控訴人の交付した金員を必要経費として控除すべきであると主張するが、田口らが控訴人に金員を交付するようになった前示の経緯を見ると、控訴人の金員支払いは、田口らの金員支払いとは無関係に一方的に行われたものであって控訴人の金員の受領と金員の交付との間には相互に関連性がなく、控訴人の交付した金員は、控訴人が金員の支払いを受ける必要上支出された金員とは認め難いから、雑所得の金額の計算に当たり、控訴人が田口らに対し支払った金額を必要経費として控除する必要はないというべきである。

4  控訴人は、右金員は、歩合給のため収入の少ない田口らにとり、固定給を得ていた控訴人との間に資金を拠出しあって収入を平準化しその安定を図ることに意義があったものであると主張するが前掲各証拠によれば、田口らが実施していた報酬の再分配に前示の経緯により控訴人を加えて金員を交付するようになったものであるが、当初は田口らが一方的に金員を交付していたものであり相互的なものではなかったこと、田口らの国際開発から受ける報酬は昭和四八年ころ以降控訴人に比べむしろ著しく多額であり、控訴人との間で報酬を拠出し合って分配する利益はなかったと見られること、昭和五四年から昭和五六年の間においても田口らの収入は控訴人の収入を格段と超えていたこと、控訴人から田口らに金員の交付がされるようになったものの、これは控訴人が田口らと協議の上行ったものでなく一方的に行うようになったものであって、田口らにとりその趣旨も明らかにされておらず、報酬を拠出し合ったとは言い難い。

そもそも、田口ら及び控訴人の出した金員の額が、控訴人主張のようにほとんど差がないとすれば、前示のような複雑な計算方法によったり、かつ年数を掛けたりして相互に金銭を支出することの意味を見いだすことは困難というべきである(控訴人本人の供述するような相互の団結ということのみでは、田口らと控訴人との立場の違い、収入の性質の違いなどを考えれば、説明をし難いところであると考える。)。

以上によれば、控訴人の右主張は採り難い。

5  控訴人は、田口らから支払われた金員を国際教育開発の労働組合対策のための情報収集、会合、顧客の接待のための費用に支出したと主張し、甲一一六、一二三号証にはこれに沿う記載があり、甲一一〇号証の一ないし五、同一一一号証の一ないし九、同一一二号証の一ないし九、同一一三号証の一ないし一一、証人鎌形勝、同市野辰夫の各証言によれば、控訴人は、前記情報収集のための費用等を支出していたことが認められるが、仮に、田口らの支払った金員が右費用の支出に当てられたとしても、右金員は使途を限定することなく控訴人に支払われたものであるから、控訴人がその判断で前記用途に支出したからといって、右金員が控訴人の雑所得であるとの前記判断は左右されないということができる。のみならず、田口らから受領した金員がどの程度控訴人自身の私的な支出のための金員と区別されていたかは、控訴人本人の供述によっても疑わしい。

三  以上のとおり、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宗方武 裁判官 水谷正俊)

更正決定

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

右当事者の間の平成四年(行コ)第三五号所得税更正処分等取消、裁決取消請求控訴事件(原審 東京地方裁判所昭和六一年(行ウ)第一〇九号、一二〇号)につき、平成六年三月三〇日当裁判所が言い渡した判決に明白な誤謬があるので、職権により次のとおり更正する。

主文

右判決三枚目表九行目の「控訴人」を「田口、山下」に改める。

平成六年四月八日

東京高等裁判所第一民事部

裁判長裁判官 伊藤滋夫

裁判官 宗方武

裁判官 飯村敏明

当事者目録

東京都世田谷区成城四丁目三一番二六号

控訴人 村上静夫

右訴訟代理人弁護士 佐藤義行

右同 後藤正幸

右同 中川明

右同 丹羽一彦

右同 小林雅人

右丹羽一彦訴訟復代理人 丸橋亜紀

東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号

被控訴人 世田谷税務署長 一杉直

右指定代理人 開山憲一

右同 石井一成

右同 中村宏一

右同 蜂谷光男

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